主人の好物  新井の大西悦子さん

 主人が死んだんで、嫁さんが
精出えてお寺ぁ行って仏さんに参るのになあ、
「おっさん、どんなもんでもお供えしたらええか」
「どんなもん供えてもええ」
「生くさいもん供えてもええか」
「ああ、生くさいもんでも供えてもええ」
「ほう、そうですか」
いうて、そう言うたけど、
えらあ、あの嫁さん、ひとつも本堂から出て来んが、
何しとるだ行って見ちゃろうと思って行って見たら、
それこそ股ぁ拡げて、
仏さんに拝ましとったげなが。
「よう、こりゃ失礼な、何しとる」
いうて、おっさんが言いなはったら、
「あの、おっさんは生くさいもんでも
供えてもええ言うたで、
うちの主人は生きとるとき、
これが一番の好物だったさかい
、その好物ぅ供えとる」
いうてしたら、おっさんが、
「ほんなら、おさがりちょうだいしよう」
いうて、一緒ぃなったいう。☒