あるときに横行の兄さんが きじ(雉)を一羽さげて、
ぶらぶら、八鹿から町へ出てきて、
そうして、背中に大きな袋に何かしらんけど背負って、
そうして、
「からすいらんかあ、からすいらんかあ」
言って売って歩いたいうたすけえな。
そうしたところが、八鹿のにいさんらあが
あの五、六人寄っとって
「おお、横行のにいさんがきじをさげとって
『からすいらんかあ、からすいらんかあ』言っとるが、
あれ買うちゃろかい」ちゅうことで、
「なんぼあ。安かったらもうたくさんもらうが、もうまけとけ」ちゅうて、
「なんぼなんぼ」
「おう、それじゃったら、きじがあのねだんならいっこう安いなあ」
言うてみんなが買う相談をして、いよいよお金を払う時に、
その横行のあにさんがそろそろ荷をおろして、
そして荷からからすを出えて渡えたちゅうん
「こりゃあ、お前、持っとるのとちがうじゃなえか、このからすは」
「いえ、『からすいらんか』言うて、からすを売ります言うたんが、
これがからす」言うて、買う言うた関係上、
みな金を集めてきとる「どうもそりゃあ一本やられたなあ」
て言うて頭きゃあたいうような話。
・・・
これは昭和五十一年収録のテープを翻字したものと「く昔」。
この話「くみはまの民話と伝説」にもあって、同じ語り手の
昭和四十七年府老連収録のテープでは
・・・
「まああみい。鈍な婿どんが雉と烏と間違えてカラスいらんか言っとるが、
一つ買あちゃらか」と五人十人と集まって烏買おうか、なんぼ、なんぼ。
「ちょっと高いけど、まあその烏ならよからあ」と値段の折合が出来、
町の連中は我先にとその烏を買おうとお金を出しはじめた。
婿どんは、やおら背中の袋を下ろして中から
何羽もの烏を出して売り出した。
町の連中は声を揃えて「その手にぶらさげておる烏は売らんのか」と。
鈍な婿どんは言った
「うちの方ではこれは雉と言うん。わしゃあなあ烏いらんか言ったらあが。
お前らも烏くれと言った。何も文句言うことあらへんがな」と。☒